桜シーズン到来!本格的な春の訪れに心も自然とウキウキしますね。
それにしても、日本ではなぜこんなにも桜が愛されているのでしょう。 京都にはなぜ桜の名所が多いの? なぜ、お花見と言えば染井吉野(そめいよしの)なの?京都で見られる桜の品種ってどんなものがあるの??……などなど、今回は京都府立植物園の樹木医・中井貞さんに、桜に関する「なぜ?」を色々聞いてきました!
京都に桜の名所が多いのはなぜ?
そこには「都」だった歴史と深い関係が…
京都の桜の名所といえば、祇園白川や嵐山、哲学の道に平野神社、仁和寺、平安神宮…と、数え切れないほどたくさんありますよね。なぜこんなにも「桜の名所」といわれる場所が多いのでしょうか。その理由を伺うとやはり京都が「都」であったことが大きく関係しているそうです。
日本には山や田んぼの脇に自生する野生種の桜(主にヤマザクラとエドヒガン)があり、何百年も生きる古木や巨木として人々に親しまれてきました。やがて都ができるようになると、人が桜を植えて観賞するという文化が根付きます。京や江戸などの都市部では、お寺や神社に桜が集められ、そこを名所にして人々が集まって観賞するようになったのです。
次第に人々は野生種の桜を交配させて品種改良するようになります。変わった桜や珍しい桜が権力者の元に集まるようになったため、1000年もの長い期間都であり続けた京都には、それだけ桜の名所が多いということなのだそうです。
特に園芸文化が発展した江戸時代は、桜に限らず各藩がこぞって珍しい植物を栽培し自慢することが一つのトレンドでした。桜も多用な品種が生まれ、観賞されるようになったという歴史的な背景があるそうです。
野生種と栽培品種の違いとは?
染井吉野や枝垂れ桜も栽培品種!?
ここで、知られざる桜の基礎知識をご紹介!桜には、野生種と栽培品種の桜の2種類があることをご存じですか? 「野生種」には10種の桜がありますが、特に有名なのがヤマザクラ、オオシマザクラ、エドヒガンの3種です。
なかでもオオシマザクラは栽培品種をつくる際に重要とされている品種で、他の桜にはあまりない“香り”が出るのが特徴。よくある“桜の香り”とは、このオオシマザクラの香りのことだったんですね。ちなみに桜餅に使われる塩漬けの葉にも、オオシマザクラの葉が使われています。
人間が生活する里の空間で、観賞目的のために栽培・植栽されている桜を「栽培品種」といい、里桜とも呼ばれています。交配や枝変わりの結果、花びらの数が増えたり、花そのものが大きくなったり、これまでにない色の花びらができたりしてきました。たとえば「桜」といえば、染井吉野(そめいよしの)や枝垂れ桜(しだれざくら)、八重桜(やえざくら)などを思い浮かべる人が多いでしょうが、これらは全て栽培品種のひとつなんです。
※野生種はカタカナ、栽培品種は漢字で表します。
なぜ、お花見といえば染井吉野(そめいよしの)なの?
その歴史は意外と新しい?
お花見といえば、染井吉野を連想しますよね。では、なぜ、日本人がイメージする桜は、染井吉野なのでしょう?
実は、染井吉野の歴史は意外と新しく、江戸時代の終わり頃、江戸郊外の染井村(現在の東京都豊島区)でオオシマザクラとエドヒガンを親木として作られた栽培品種が染井吉野でした。品種の歴史としては浅いのに日本中で「お花見といえば染井吉野」となっているのには、明治維新が大きく関係しています。
というのも、江戸時代までは武家屋敷や神社仏閣に集まっていた桜が、武家の消滅や廃仏毀釈によって、次々と伐採されていったのです。栽培品種の桜は自然の桜ではないので、種から新世代とはならず、人の手で接ぎ木などをして残していかないといけません。何百年と培ってきた桜の栽培品種文化も一旦、衰退してしまいます。
そんな時代に生まれた新しい品種・染井吉野。東京を拠点とする新しい明治政府は、東京生まれのこの新しい桜を全国の学校や公道、神社などの公の場所にふさわしい樹木として植栽を進めました。他の品種と比べて染井吉野は木の成長が圧倒的に早く全国に広がっていったため「桜といえば染井吉野」というイメージが定着したのです。
日本の花見文化は有史以来ありますが、お花見=染井吉野の歴史は、実はつい最近の文化だったんですね。
京都でも染井吉野は多くの場所で見ることができますが、伝統文化と歴史が残るまち・京都で見られる桜の品種をいくつかピックアップしてご紹介します。
京都で見られる桜の品種
有名なあの桜から知られざる品種までご紹介!
枝垂れ桜(しだれざくら)
一般的に桜の木は上に伸びて枝葉を広げていきますが、野生種エドヒガンの中で伸びた分だけ垂れるような特徴のある個体を選んで栽培したものが枝垂れ桜です。花の形はエドヒガンと同じですが、植物ホルモンの影響で枝垂れる形になりました。京都では枝垂れ桜の名所として、円山公園や醍醐寺が有名です。
市原虎の尾(いちはらとらのお)
直立した枝に白い八重の花が咲くという枝ぶりが虎のしっぽに見えるという品種です。京都において桜の保存に大きな役割を果たしている「佐野家(現代も続く桜守の家系)」に見出され、世に広がっていきました。京都府立植物園や京都御苑などで見ることができます。
太白(たいはく)
栽培品種の中でもいちばん大きな花(直径が5センチ以上)が咲く品種です。日本で栽培されていたものが一度は絶滅したそうですが、1932(昭和7)年、学者であった鷹司信輔氏がイギリスに輸出されていたものを逆輸入して「太白」と名付けたそうです。
非常に特徴的な八重桜で、葉化しためしべが2本あるのが特徴です。この2本になっためしべが象の牙のように見えることから、普賢菩薩が乗っている象に見立てて普賢象の名がつきました。花の咲く時期は少し遅く、4月中旬頃です。京都では千本ゑんま堂(引接寺)が有名です。
鬱金(うこん)・御衣黄(ぎょいこう)
ちょっと珍しいのが、黄色の桜である鬱金(うこん)と、緑の桜である御衣黄(ぎょいこう)。葉緑体の影響で花の色が変わっており、一見すると桜に見えませんが、これも桜の品種なんです。
ちなみに、これらの桜の品種全てを見られるのが、京都府立植物園。なんと180品種もの桜を観賞できるそうで、中井さんによると「バックヤードで保有する品種を加えると200以上となり、国内随一の桜の名所であると自負しています」とのこと。
「植物園は『生きた植物の博物館』としての役割を担っています。桜についてもその多様性や歴史、文化まで含めた奥深さを知っていただけるようにしています。早咲き品種は2月下旬から、遅咲きのものは4月下旬までと、品種によって開花期も様々。長期間にわたって桜を楽しむことができます。」(中井さん)
桜の季節は特にですが、桜以外の樹種や草花も豊富なのが府立植物園の魅力。訪れる度に違った変化を楽しめるのがうれしいですね。
府立植物園では、4月~5月にかけて、桜のライトアップをはじめとした多彩なイベントが開催されます。4月の桜から、つばき、しゃくなげ、バラと、多彩な花が咲く季節。気になる行事があれば、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
最後に、中井さんに、京都府立植物園以外でおすすめの桜スポットを3つご紹介していただきました。
樹木医・中井さんがおすすめする京都の桜スポット
京都市内の厳選3スポットをご紹介!
平野神社(京都市北区)
京都の桜の名所として古くから有名な神社で、栽培されている品種数も豊富です。夜桜のライトアップは出店や酒席などで賑わい、日本の伝統的な花見文化の多様さも体験できます。京都市内で最も古いお社のひとつで、歴史散策の対象としてもおすすめです。(中井さん)
常照皇寺(京都市右京区)
「皇室所縁の歴史ある寺院で、庭にある桜も、たとえば『九重桜』(ここのえざくら)や『御車返しの桜』(みくるまがえしのさくら)、『左近の桜』(さこんのさくら)といった、御所や皇居に由来する特別な名木を観賞できます。京都市内の北部に位置し、桂川の源流やよく手入れされた北山杉など、古き良き田園風景もたいへん魅力的。都市部では味わえない、周辺環境も含めたのどかな雰囲気を楽しめます。」(中井さん)
仁和寺(京都市右京区)
「染井吉野や枝垂れ桜とともに、遅咲きで有名な『御室桜(有明など)』で有名。周辺に世界遺産の寺院や風光明媚な散策エリアが点在しており、桜観賞だけでなく充実した京都探訪が叶います。染井吉野など一般的に知られる桜の開花期より少し遅れて見頃となることや、樹高が低いため私たちの目線で花を観察できるのも特徴です。」(中井さん)
知られざる桜の歴史や豆知識、いかがでしたでしょうか。
ぜひお花見の時に話題にしてワイワイ盛り上がってください^^
■■SPECIAL THANKS■■
今回お話を伺った京都府立植物園 樹木医の中井貞さん
■■INFORMATION■■
京都府立植物園
京都市左京区下鴨半木町
075-701-0141
開園時間:9時~17時(最終入園16時)
入園料:大人200円、高校生150円
※中学生以下、70歳以上及び障がい者の方(介護者含む)は無料(要証明書提示)
休園日:12月28日~1月4日
アクセス:地下鉄北山駅下車3番出口からすぐまたは北大路駅下車3番出口から東へ徒歩約10分、市バス停「植物園前」下車徒歩約5分