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レトロ・クラシックな京都の近代建築をめぐる旅 大山崎山荘

f:id:kyotoside_writer:20180516224516j:plain京都府内の様々な洋館を訪ね歩くこのシリーズ。3回目はココ、乙訓郡大山崎町にある大山崎山荘です。現在は「アサヒビール大山崎山荘美術館」として公開され、クロード・モネの『睡蓮』や河井寛次郎や濱田庄司、バーナードリーチなどのコレクションでも知られています。建物は細部にいたるまで意匠がこらされ、こだわりがたっぷり。新緑の下、美しい建物と美術作品を楽しみにでかけてみませんか。

 

大正~昭和初期にかけて建てられた美しい別荘

f:id:kyotoside_writer:20180516233057j:plain大山崎山荘は実業家・加賀正太郎(1888-1954)氏が大正から昭和初期にかけて作った別荘です。加賀氏の事業は手広く、本業の証券仲買業の他にも土地経営、吉野の山林経営など多くの事業を営んだ人物。それにしてもこんな立派な洋館が住宅ではなく、別荘として建てられたというのは驚きです。

 

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チューダー様式の特徴の一つ、骨組みをむき出しにした「ハーフティンバー」が見えます。

設計は加賀氏自身といわれ、15世紀終わりから16世紀初めにかけてのイギリスで盛んに建てられたチユーダーゴシック様式。加賀氏は若い頃にイギリスのウィンザー城を訪れ、その時に見たテムズ川の流れの記憶を基に、木津、宇治、桂の三川が合流するこの地に山荘を作ることを決めたのだそうです。

 

f:id:kyotoside_writer:20180516224743j:plain着工は大正1年。何度かの増改築を重ね今の姿になったのですが、第一期工事が完成したのは着工から5年後。当時は今とは全く違ったイギリスの炭鉱夫の家をイメージした建物だったそうです。少しだけその名残を玄関部分に見ることができます。

 

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独特の削り痕を残した日本古来の加工技術「名栗仕上げ」が施された玄関柱。ステンドグラスも美しい。

さあ、中に入ってみましょう。

 

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大きな木材を活かしたアーチが見事。

入ると、すぐ左にあるのが暖炉。洋風でもあり民芸風にも見える大きな無垢の梁が印象的です。加賀氏は林業も営んでいたから、木材の目利きには長けていらっしゃったんでしょうね。

 

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左のガラスは金が練り込まれ、廊下側と部屋側では色の発色が異なって見えるという、手が込んだもの。

暖炉の前をすぎ右手に曲がると現れるのが、このステキな廊下。右の窓から入る光が黄味がかった龍山石の柱や大理石の床に反射し、柔らかな明りに変化させています。

 

f:id:kyotoside_writer:20180517151443j:plain廊下の奥にあるのが応接間。当時は様々な植物も置かれサンルームとしても使われていたそうです。白い床と石の壁がステキで、まるでヨーロッパのお城のダンスホールのよう。

 

乙訓ならでは?! タケノコのレリーフ

f:id:kyotoside_writer:20180516225445j:plain応接間の向こうにあるのが加賀氏の居間でした。ちょっと暗くて分かりにくいのですが、この部屋、とにか~く趣向を凝らしてあるのです!

 

f:id:kyotoside_writer:20180516225710j:plain例えば一つ前の写真の右側にある暖炉。よく見るとこのように石に浮彫や線刻で画像を絵が掘ってあるんです! これは古代中国のお墓の装飾に使われていたという「画像石」。非常に美術的価値が高い品です。

 

f:id:kyotoside_writer:20180516225839j:plainしかも壁の上の方にも、この画像石の複製が使用されているのです。ぴったりはまっているのを見ると、後から石を買い求めて入れたのではなく、最初からこの部屋にこの石を使うことを思って設計したのでしょうね。

 

f:id:kyotoside_writer:20180516225929j:plain(左上)壁の上の装飾。タケノコが掘ってありました!(右上)彫刻が施された電気も素敵(左下)リスがモチーフになった暖炉前のガード(右下)壁には実物の魚網が塗りこめられています

他にも沢山の意匠やこだわりが随所に見られ、加賀氏の思い入れが伝わってきます。

各部屋の美しい照明器具にも注目

f:id:kyotoside_writer:20180516230616j:plain光がアンダー気味に入り落ち着いた印象のこの部屋は食堂。このお部屋の照明がステキなんです。

 

f:id:kyotoside_writer:20180516230804j:plainそう、大山崎山荘は照明がどれも素敵なんです。戦争を挟んで、これだけ美しい照明器具が残っているなんてすごいですね。

 

f:id:kyotoside_writer:20180516230943j:plainさて、食堂の魅力の一つがこのテラス。池には睡蓮が植えられ、さながらクロード・モネの絵のよう。安藤忠雄氏が設計した「地中の宝石館」には、『睡蓮』の連作が展示されているので、ぜひそちらへも訪れてくださいね。

 

f:id:kyotoside_writer:20180516230851j:plain食堂の横から続くこの廊下は、かつて加賀氏が育てていた蘭のための大規模な温室へ続いていました。今はもう温室は無いのですが、大きく取られた窓と南国を思わせるエメラルドグリーンの窓枠がさわやかな印象です。

 

音楽隊を招いてダンスパーティ

f:id:kyotoside_writer:20180516231013j:plain1階フロアの真ん中には2階へ続く階段があります。飴色に光ったこの階段の手すりのアーチも見事!よく見ると、ねじれながらカーブを描いています。

 

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階段の踊り場にはヨーロッパから取り寄せたという大きなステンドグラスが。真ん中にはマリア様が描かれていました。

 

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2階ホールから見る天井。天井にチューダーゴシック風の美しい小屋組みが見られます。

2階ホールではダンスも行われたそうですよ。3階には音楽団が演奏するボックスがありました。ここに紳士淑女が集ったわけですね。どんな感じだったのかしら。

 

温水シャワーにヒーターまであるんです!

f:id:kyotoside_writer:20180516231235j:plainそして最も私が驚いたのは2階客室奥にあったバスルーム。洋風になっていてトイレ(右)とバスが一緒の部屋にあるのです。今ではさして珍しくありませんが、当時時としては超最先端の仕様ですよね。

 

f:id:kyotoside_writer:20180516231416j:plain(左上・下)シャワー、(右上)洗面台、(右下)カーブに合わせてタイルを割って貼ったのではなく、あらかじめカーブに合わせてタイルが焼かれています。

床や壁にめぐらされたタイルは特注。よく見るとシャワーにも洗面台にもお湯のマークが。というのも山荘の裏手にはボイラーが完備されていて、温水が2階まで届いていたんですって。重ね重ね最先端!!

 

f:id:kyotoside_writer:20180516231446j:plainしかも、そのボイラーのおかげでヒーターもちゃんと完備されているんです。

 

f:id:kyotoside_writer:20180516232031j:plainそしてこの部屋にはテラスがあって出ることも可能。あの塔は「栖霞楼(せいかろう)」。加賀氏が敷地を見渡しながら山荘を設計し、工事の監督をするためだけに建てられた塔なのだとか! それだけのために塔を建てたとは! 国の有形文化財に指定されています。

 

大パノラマを楽しみながらティータイム

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スクラッチタイルにハーフティンバーが間近で見られます。

そして、「大山崎山荘といえば」の一つに数えられる大テラス!! 

 

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ご覧の通り、加賀氏が望んでいた「桂川・宇治川・木津川」の三川と男山など大パノラマが楽しめます。こちらは喫茶室になっていて、

 

f:id:kyotoside_writer:20180516232424j:plainケーキやアサヒビールなどが楽しめます。ケーキは定番のワインケーキなどもありますが、企画展示に合わせた期間限定の特別ケーキも人気。写真は現在開催されている「ウィリアム・モリス -デザインの軌跡」(企画展詳細は文末)に合わせたバラとクランベリーのケーキ。この大パノラマを見ながらお茶をしていたら、なんだか加賀氏の家にお招きされた気分になってきます。

 

f:id:kyotoside_writer:20180516232447j:plainそんな気分もつかの間、ふと横をみると、なにやらステキなボタン。これ、なんと使用人を呼ぶ際に押すボタンなのだとか! そういわれて見ると館内のあちらこちらに、このような小さなボタンがあるのです。うーん、恐るべし加賀氏(しかも、このテラスだけでも2つも付いていました!!)。

 

f:id:kyotoside_writer:20180516232505j:plainご紹介しきれなかったのですがお庭も散策できますし、まだまだ美しいし意匠がいたるところに見られます。みなさんも、ぜひ、訪れて美術鑑賞と共に建物も堪能してくださいね。

※館内は「大テラス」と「庭園」のみ撮影可能。他は写真撮影不可です。ご注意ください。

 

アサヒビール大山崎山荘美術館 

京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3
TEL 075-957-3123(総合案内)
開 10:00~17:00(最終入館16:30)
月曜日(祝日の場合は翌火曜 ただし2018年11月19日、26日、12月27日は開館)、臨時休館、年末年始 

 

 企画展「ウィリアム・モリス -デザインの軌跡」

~2018年7月16日(月)

ウィリアム・モリスがデザインした壁紙、テキスタイル、椅子、出版物など主要なモリス作品と、同時代のデザイナーたちによる作品を合わせた56点を展覧。美しいくらしを求めたモリスの生涯とそのデザインの歩みを紹介しています。
一般 900円 高・大学生 500円 中学生以下  無料

 

 

 

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