2018年夏、KYOTO SIDE編集部スタッフは再び京丹後市・間人(たいざ)を訪れました。
目的は、前回入れなかった青の洞窟への再挑戦でしたが、わたし達はこの冒険の旅で、京丹後の自然と人が織りなすいくつもの物語を目の当たりにしました。今回は、その旅の記録です。
前編は、京丹後のジオパークと青の洞窟を巡る旅、後編は古代からある間人のパワースポットをご紹介します。それではまずは前編から、スタートです!
900人のお客さんを案内した京丹後の海のマイスターがご案内
7月某日、わたし達は京丹後市間人(たいざ)にある竹野漁港(たかのぎょこう)へとやってきました。メンバーは、昨年洞窟に挑むも波に阻まれリトライに燃えるわたくしライターE、今回初参戦の古墳女子ライターS嬢、自他ともに認める晴れ女カメラマンIさんの女子3人組。
天候は見事な晴天…ですが、油断は出来ません。昨年も、取材時は晴れていましたが、白波が立って入れなかったのです。数日前も、波の影響で入れなかったと聞きました。今年はどうでしょうか…ドキドキ。。
竹野漁港のとび丸タクシー乗り場に到着です!
間人には、山陰海岸ジオパーク遊覧や漁業体験などのコースがいくつかあり、間人漁港、中浜漁港、そして竹野漁港という3つの漁港からそれぞれ遊魚船とび丸タクシーが出ています。青の洞窟・愛の洞窟探検ツアーは、この竹野漁港から出るものになります。
笑顔の素敵なこの方が、本日の案内人にして、京丹後の青の洞窟の発見者・西口敏明さんです!
間人で定置網漁一筋47年、間人の海を知り尽くす地元の漁師さんで、京丹後龍宮プロジェクトの中心メンバーで、総勢900人のお客さんを案内した京丹後の海のマイスターでもあります。昨年は、都合でお会い出来ませんでしたが、今年ようやくお会いすることができました!
救命胴衣を身に着けて遊漁船とび丸タクシーに乗り込み、さぁ、いよいよ海へと出発です!!今回のツアーへは、京丹後龍宮プロジェクト事務局長の富田亜弓さんも同行してくださるそう。
目の前に広がるエメラルドグリーンの大海原と山陰海岸ジオパーク
船が港から大海原へと出てものの数分…真っ青な海と、地平線がお出迎え。潮風もとても心地よく感じます。このクルージング初体験となるS嬢とIカメラマンは、「気持ちいい!涼しい!!景色がすごい!!」と興奮気味^^
いよいよここから、西口船長による約1時間の観光案内がスタートです。
西口「正面に見える、海に突き出た岩山を犬ヶ岬(いぬがみさき)と言います。あそこに青の洞窟や愛の洞窟があるんですよ。」
犬ヶ岬を横目に、まず案内されたのは、数々の奇岩がある海域。鶴岩、亀岩、ジジ岩、ババ岩、そして、屏風岩の5つが見られます。西口船長曰く、ここは非常に“めでたいところ”だといいます。
鶴と亀は長寿の象徴。そしてジジ岩、ババ岩は、ここ京丹後は長寿の方が多く、夫婦岩とは言わずにジジババと称されているそう。そして、その名の通り、屏風を立てたように屹立している高さ13メートルの大きな屏風岩は、そのスケールの大きさに圧倒されます。
夕暮れ時、陸側から海を眺めると、屏風岩やジジババ岩の先に夕日が沈んでいく光景があるそうで、まるで金の絨毯をしきつめたかのような絶景が見られるそうですよ。黒い屏風岩が、金屏風に変わる瞬間はそれはとてもキレイなのだそうです。確かに、縁起が良くてめでたい場所ですね。
宝石のような海とはまさにこのこと。南国ではありません、このエメラルドグリーンの海は京丹後の海です。京都府内で、このような海の景色が見られること自体、とても驚きました。
海の水の透明度が高いため、海底の白砂が光って見えて、海の色を更に鮮やかに魅せています。
このような景観が見えると、青の洞窟もとても美しく見えるのだそう…今でも十分、海で感動していますが、これ以上の美しさとはいかなるものなのでしょう…
この海域一帯は、ミネラル豊富な水が地下から湧き出ており、豊かな海の幸を育んでいます。サザエやアワビは生育の早さもさることながら、特別大きいサイズのものが採れるそう。冬には海苔、春はワカメ…この界隈で育つ海産物は特に濃厚な旨味をもつそうですが、こんな美しい海を目にすると、うなずけます。
※注意)禁猟区として稚魚や稚貝の育成の場所もあるので、一般の方が無断で採ることは禁止されています!!
近くの小高い岩山に、3つの大きな穴が見えます。この辺りは、京丹後の夏のおすすめマリンスポーツ・シーカヤックで、よくお客さんが訪れているという場所です。
毎日のようにお客さんを連れて海上案内している西口船長は、だんだんと地質のこともわかってきたそうで、この中でどの洞窟がいちばん古いか、なども教えてくれました。何百、何十万年もかけて創られた自然の造形美、これらは山陰海岸ジオパーク(地質遺産を複数含む自然公園)として、訪れる人の心を捉えています。
西口「来ていただいたお客さんに、大自然のパワー、エネルギーを体感してもらえたらそれがいちばん良いのではないかと思っています。」
犬ヶ岬に近づいてきました。
近くでよく見ると…岩がなんかボコボコしている…?この岩は、安山岩。つまり元は溶岩なんですね。火山が噴火して、噴出したマグマが海の水で急速に冷やされて出来たものです。
犬ヶ岬ができたのはおよそ350万年前のことだそうですが、実はこの地質を調べにやってきた3人の学者さんを連れて、西口船長がこの界隈を船で案内していた時に、青の洞窟を見つけたのだそうです。
地質学者を連れてたまたま入った小さな洞窟…そこで見た光景に、学者さんの一人が「イタリアの青の洞窟より素敵だ…」とつぶやいたことで、西口船長は、この地に宝物があることに気づいたと言います。2013年6月の出来事でした。
愛の女神ヴィーナスが入り口を守る「愛の洞窟」
海の色は、紺碧がどんどん深まっていきます!
出発から25分…まず1つ目の洞窟「愛の洞窟」が近づいてきました。入り口に隠れハートマークがある、カップルに人気のスポットです。
今年、なんとこの愛の洞窟では大発見があったそう…。
洞窟入口にそびえ立つ岩…これ、よく見ると人の横顔に見えませんか??
髪、鼻、口元、そして、目にあたる部分が例のハートマークの部分。どう見てもこれ、人の顔!
昨年はハートマークに気を取られて、全っ然気づきませんでしたし、もちろんそれは地元の皆さんも同様で、このように見えることに気づいたのは、今年の6月の出来事だったそうです。
「愛の女神(ヴィーナス)だ!!」と、地元ではかなり話題となりました。
不思議なもので、見る人や、見る角度によって、これは男性だと言う人や、ギリシャ神話に出てくる神様みたいだな、など変わってきます。今見ると人の顔だとハッキリわかりますが、これまで何百人の人がここを訪れてきても見えていなかったこの神秘の景観、そして発見者の一人が西口船長だということにも、何やら不思議な縁を感じます。
愛の洞窟内に入ってもらいました。中は意外と広く、ひんやりしていて、基本は暗いです。こちらは、海が青く見えることはなく、入り口の光がなければずっとこの中にいるのはちょっと怖いかも。洞窟は全長200メートル。このまま奥へ進むと50メートル付近までは船で行けるそう。その先、150メートルを泳いでいくと、出口があります。
ここは元々、大雨が降ったときの漁師の雨宿り場だったそうです。
本場イタリアより素敵!奇跡の絶景「青の洞窟」
さぁ、次はいよいよ、青の洞窟です。入る前にヘルメットを装着しました。わりと大きめの愛の洞窟のとなりにあり、「えっ!?ここに入るの?」と思うような、小さな小さな入り口こそ、青の洞窟の入り口です。
昨年は、荒ぶる波の影響で入れなかった…今年は海も穏やかで波もない…遂に、中に入ります!!
入り口の大きさ(2メートル10センチ)がほぼ船と同じサイズ(1メートル80センチ)で、あまりにも小さく、もちろん雨宿りで入るような場所でもありません。
中も、とにかく狭い!!時折、ガツッ…ゴツッ…と岩肌に当たりながら船は奥へと進んでいきます。ベテラン漁師さんによる巧みな船さばきの技術がないと、絶対に入ることができない場所です。
よく、アミューズメントパークで冒険アトラクションがありますが、ここは本物のアドベンチャー。乗っている方も、心臓バクバクです。
奥へ、奥へと、ずんずん船は進みます。
上を見上げると、ぬれた岩肌が上の方まで続いています…ここも地下水が染み出しているんですね。
しばらく進んだところで船は停まりました。西口船長が言います。
「さぁ、後ろを振り返って。」
そこにあったのは、生まれて初めて見る神秘の光景―。
先程の愛の洞窟とはまるで違う、透き通った深い青色の海が目の前に広がっていました。
その美しさに、圧倒され、感動し、心癒やされる…言うなれば、心のデトックス空間とでも言いましょうか…。
静寂の中に聴こえてくる、ちゃぷん、とぷん、という水の音。ゆらゆらと漂う小船の心地よさ。
洞窟内はひんやりしており、さっきまでの猛暑はどこへいった?というくらい、適温です。岩肌も丸く、表面がぬれているため光を反射してキラキラと輝いています。
そう、まるでお母さんの胎内にいるかのよう…入ったら最後、出たくないという人も多いそうですが、その気持ちもよくわかりました。居心地が良すぎるんですね、ここ。
なぜ、この洞窟だけ、このような光景が見られるのか・・・
それは、海底の砂がこの小さな洞窟内に入ってきて、うまい具合に空の色が反射しているからだと言われています。洞窟ごとに地質が違い形も違うのですが、たまたまこの洞窟の形状、砂の侵入とたまり具合など、さまざまな条件が重なって、この光景が見られると考えられています。
西口さんは47年、漁師をしている中で、実は何度かこの洞窟内にも入ったことがあったそうですが、その時には何の変哲もない、ただの洞窟だったそう。
いつからこのような光景が見られるのか、正確な年月はわかりませんが、おそらく20年くらい前から砂が入ってきてこのような光景になったのだろうと言います。
自然が創り出した奇跡の絶景、見ることが出来て、本当に感動しました。
自然の造形、そこから見えてくる物語
青の洞窟を堪能した後、再び海原へと出てきました。
西口「岩の先端を見てください。観音さまがいるように見えないですか?」
えーと、どこだどこだ?…あ、横顔が見えますね。鼻…口…お腹の前に手をちょこんと組んで座っているかのようにも見えて、確かに雰囲気があります。
西口「犬崎観音(いんざきかんのん)って名前を付けたんですよ。」
ライター「名前を付けた?地元の人がですか?」
西口「いや、わたしが。」(!?)
なんと!この辺にあるものの名前、全部、西口船長が名付けたのだそうです。ちなみに、青の洞窟もハートも愛の洞窟も…西口船長、なかなかのロマンチスト!!以前、ネットに「丹後には、愛を熱く語るおじいさんがいる」と書かれたそうで、それ、西口船長のことだったそうです^^
御年70歳の西口船長曰く、この地で本当に見て、感じて欲しいものは、青の洞窟というよりも、この地一帯に広がっている自然のパワーだと言います。
青の洞窟自体は全国にもいくつかあり(確かに!)ただ、京丹後が他所と違うのは、見るべきものが1つではないということ。
中でも、特に西口船長が見て欲しいと願うもの、それは…。
犬ヶ岬の岩山全体に広がる、獅子=ライオンの顔。
7年前、西口船長がここでライオンの顔を発見した時には、衝撃が走ったそう。ライオンは百獣の王。ここに来たら、人間王者、正義の人になってください、と伝えているそうです。
西口「このライオンの顔は、世界一だと思う。これは他に絶対にないものです。」
皆さん、ライオンの顔、見えましたか??
獅子の顔を、絵にしてもらったものがあります。岩山に広がる大きなライオンの顔と、そして下の方に見える仔ライオンの姿。上の写真と、照らし合わせてみてください。
岩山に刻まれた百獣の王の姿を見て、自分の人生についても再確認してもらい、そして、これからも人間王者の生き方、正義の生き方をして欲しいと、西口船長はこの地を訪れた人達に語ります。
ちなみに…角度によっては、顔が細くなって犬のように見えるそうで、海上交通がメインだった時代に、この顔を見たことから犬ヶ岬という名前になったのだとか。あと岬の先端にずり落ちた小山があるのですが、上を向いて犬が吠えているように見えることも名前の由来のようです。
ツアーはどんどん進み、西口船長の職場の定置網に到着しました。(ちなみにここで、定置網漁を体験できるプランもあります!)
47年間毎日、ここから犬ヶ岬を眺めていて、7年前に獅子の顔、5年前に青の洞窟、今年初めて愛の洞窟の入り口で女神の顔が見えた…外の人とも交流する中で気づきがあり、地元の良さを再発見し、誇りを持って外にPRできるようになったことで、今、多くの観光客が間人に訪れるようになっています。
西口「日々、漁師として営む中で、禅問答のように岩を見つめていると、昨日は見えなかったものが、意識することで急に見えるようになりました。意識することの大切さを知った時、成功の道は拓くと思います。」
ここが最後の観光案内場所、なだらかな山の稜線が一望できるポイントです。
西口「これを見て、何を想像しますか?」
初参加のライターS嬢が、うーんと考え込んだ後「…妊婦さん」と答えると、西口船長はちょっと驚きながらも「正解!」とにっこり笑ってくださいました。
丹後でいちばん大きな540mの山は膨らんだお腹、その隣のふたつの山は乳房、そのまま左へ向かっていくと犬ヶ岬がありますが、お顔や王冠のようにも見えてくるそうで、偉大なる女性、母の姿が横たわっているように見えてくると言います。
丹後にきたお客様に最後にこの雄大な景色を見せて、西口船長は「奥様を大切に」「女性を大切に」と伝えるようにしています。このツアー中、さまざまな自然の景観を見てきましたが、全長2,000メートルもの“お母さん”には叶わない…だからこそ、女性、お母さんに感謝するのだというお話を聞き、ただ景色を見せるだけでなく、そこから紡ぎ出す物語がどれも素敵だなと思った取材班なのでした。
これからの人生が変わるかも!?京丹後へいらっしゃい
西口「ここに来られる方は、人生を再確認する時に来られると思っています。たくさんいる中から、選ばれて来た方じゃないかと。来てもらった方には、大いに自然の力を感じてもらって、獅子王のような正義の人生を歩んでもらいたい。これまでの人生とこれからの人生、また変わってくると思いますよ。」
雄大な自然や、その自然が創り出した数々の奇跡の景観を実際に目で見て、身体でそのパワーと感じると、確かにこの先の人生が変わってくるような…わたし達は、そんな力をもらったような気がしました。
地域を愛する地元漁師さんだからこそ見えた、自然からのたくさんの贈り物。
地域を再発見するということの良い例として、京丹後・間人は注目されました。
地域の魅力を再発見するには、外の人の目線が必ず必要なので、中の人は外の人とどんどん交流することが大事だと思います。人と人が触れ合う体験型コンテンツの観光業を目玉とする間人は、ますます面白い町になっていくのではないか…と、そういうことを感じたクルージングツアーとなりました。
さて、次回の後編は、間人に来たら是非訪れたい、まだまだある見どころやパワースポットをご紹介します^^
お楽しみに!!
■■INFORMATION■■
青の洞窟・愛の洞窟探検ツアー(要予約・現地宿泊客優先)
予約・問い合わせ:0772−75−2639(京丹後龍宮プロジェクト/うまし宿とト屋内)
場所:竹野漁港(京丹後市丹後町竹野)
時期:6月〜9月/9時半〜15時半の間で1時間程度
料金:2人利用の場合は1人5,000円/3人利用から1人4,000円
※1人でも乗船可能(要問い合わせ)/乳児不可
※海の状況によっては出港できないこともありますのでご了承ください。
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