先日、天橋立大解剖企画をご紹介しましたが、その丹後鉄道の天橋立駅を降りて天橋立を渡った対岸。天橋立を「股のぞき」で見ることで有名な傘松公園に上がるために作られたのが天橋立ケーブルです。いつもは傘松公園に行くワクワク感から駅舎をじっくり見ることなどなかったのですが、よく見ると、これがレトロでなかなかステキなんです。そこで今回は「鉄道好き」さんにも、「レトロ駅舎好き」さんにもおすすめしたい、天橋立傘松公園ケーブルカーを探検してきました。
傘松公園と麓とを結ぶケーブルカーの旅
傘松公園があるのは海抜130mの山の上。ここから見る天橋立は龍が天へと昇って行くかのように見えることから「昇龍観(しょうりゅうかん)」と言われています。その傘松公園と地上とを結ぶのが天橋立傘松公園ケーブルカー。最大傾斜は25度。麓の「府中駅」と山の上にある「傘松駅」の間、400mを4分かけて登っていきます。
傘松 小倉屋さんの店内に飾ってあった、昔の傘松公園の写真
傘松公園へのケーブルが作られたのは昭和2年。それまで徒歩や駕籠で登っていたところを成相電機鉄道株式会社(天橋立鋼索鉄道と改称)により造られました。ところが戦時中に車両とレールを供出。戦後6年経った昭和26年8月、丹後海陸交通が復活させました。
さて、まずは麓の府中駅舎を見ていきましょう。外観からして、すでにレトロ。建てられたのは昭和26年。数年前にリニューアルしていますが、基本的に外観は当時のままで、屋根は平屋の瓦葺きという和風の建物。
バスの「タイヤ」と船の「スクリュー」を組み合わせてデザインされた丹海マーク
看板の後ろ側、妻入り部分には丹後海陸交通の社章、丹海マークがほどこされています。
待合部分は新しく作られたたもので、天井は格天井になっています。
これでもか!と頑丈に造られた白い梁が目を引く府中駅
いよいよ、ここからが府中駅舎の一番ステキな部分、プラットホームです。真っ白なペンキに塗られたトラス風の天井!! 屋根が低くて、屋根の傾斜が緩やかで柱が無い所も印象的です。
こちらは昭和26年の開通式の様子。ほとんど変わりないのが分かります。
天井は上下の部材の間をジグザグ状に補強材を渡したラオス梁構造というもの。これでもか!これでもか! というぐらい補強材が入っているのを見ると、とにかく頑丈に作りたかった当時の人々の気持ちが伝わってくるような気がします。ですから建設から50年以上も経た平成16年度の台風23号の時も、先日の台風7号でも周囲の土砂は線路に流れ込みましたが建物はびくともしなかったそうですよ。
さて、右壁面は全て窓になっていて、下に木製のベンチが付いています。ホームの勾配も4.3°と比較的緩やか。
昭和26年製! 手動の運転台
中央に置かれているのは運転台です。かつて上の傘松駅に置いてあったもので、平成6年まで使われていました。
プレートを見ると「昭和26年製」って書いてあるではありませんか! ものすごく長い期間使っていたんですね。東京日立製作所のものです。ちなみにこれ、手動式です。
1が速度調節のレバー、2のハンドルがブレーキ、3が計測器になっているんですって。自由に触ることもできますし、帽子をかぶって運転手気分で記念撮影をすることも可能。
終着駅なので、ちゃんとストッパーもついています。下は深く掘ってあり、もぐって点検修理ができるようになっています。ホームと待合室を分ける駒形の壁もいい感じ。
実際にケーブルカーに乗ってみましょう。今では珍しくなった扇風機付きのレトロな車両。照明にはガラス細工のカバーが付いています。いいなあ、こういうレトロな感じも旅情をアップさせてくれるんですよね。
ケーブルカーは単線で、2台の車両にロープが付いており、巻き上げ機で一方を引き上げることで、もう一方の車両が下がっていく、いわば「つるべ式」の原理で動いています。ですので右側の車両はずっと右、左側の車両はずっと左のケーブルだけを使って上り下りしています。
電車の上にはパンタグラフが1つ付いていますが、これは運転用ではなく車内の機械や照明のためのもの。
ちょうど真ん中、すれ違う部分だけ複線になっています。
車両の内側は正面から見ると松ぼっくり半分が描いてあり、すれ違う瞬間、1つの松ぼっくりの形が完成するのだそうですよ。心憎い演出。
最新設備を備えた山小屋風の駅舎が魅力の傘松駅
あっという間に傘松駅に到着! 正面にみえる駅員さんがいる所が運転台。ケーブルカーに乗っている乗務員さんは、運転手さんではなく車掌さんなのだそうです。山の上にあるので傘松駅の方がプラットホームの傾斜が圧倒的にきついです。
お願いして、特別に運転室に入れていただきました。
今はデジタル制御になっていて、運転台から見る景色はこんな感じ。運転台は意外にシンプルでした。ここから府中駅までしっかり見渡せます。
運転室の壁には昭和26年の時のロープが飾ってありました。鋼鉄のローブは、こんな風に拠ったものをさらに集めて束になしているんですね。
運転台の下には大きな巻き上げ機があり、これでロープを巻き上げてケーブルカーが行き来します。
旅情を誘う、山小屋風の傘松駅舎
傘松駅の外はこんな感じ。傘松駅も昭和26年に建てられましたが、その後、駅舎の上に展望台やレストランなどが作られました。
懐かしのポスターも飾ってありました。「きっぷうりば」という丸い書体も懐かしい。
駅内部は木を多用し、下に石をめぐらせた山小屋風な印象。板の側面は「なぐり」がほどこされています。
ケーブルカーの改札口は、カウンターがあるだけのシンプルなスタイル。面白かったのが、
改札を入った左にある、この注意書き。いつの時代のものなんでしょうね。「それ、持ってくる人いる~???」 とツッコミたくなります(笑)。
改札の前は待合室。曲線を描いたクラシカルな作り付けの家具は、かつての売店の跡。
壁や売店と同じテイストで作られた木のベンチもいい感じです。
ここまで来たならぜひ行きたい!「傘松」と「股のぞき」発祥の地
ところで、丹後海陸交通が営む傘松公園から成相寺へ向かうつ途中には、さらに山へ登る階段あり、ここを上がると傘松がありました! 本当に傘松があるとは恥ずかしながら知りませんでした。現在の傘松は3代目なのだとか。
まさにここが股のぞき発祥地。ここから見る昇龍観は、やはり違います。これは一見の価値アリです!!
松の下には傘松 小倉屋さんというお土産物屋さんがあり、創業は約130年。店内には大正時代などの股のぞきの貴重な写真が沢山飾ってありました。
ここで股のぞきをしてソフトクリームを食べて休憩。傘松公園でさらにお土産を買って帰りのケーブルカーへ。帰りはリフトで降りるのもいいですね。
普段、なにげなく通り過ぎている風景もちょっと目をとめてみると、全く違う景色が見えてくるものですね。天橋立や傘松公園を訪れる時にはぜひチェックしてみてくださいね。
【Information】
天橋立傘松公園ケーブルカー・リフト