日本の夏の風物詩といえば、花火、海水浴、夏祭り、そして幽霊が出てくる怖〜い話、怪談もその一つ。恐怖のあまり眠れなくなる可能性大!にもかかわらず、つい耳を傾けてしまうという人も多いのでは?
今回お目にかかったのは、そんな見えない世界への好奇心と恐怖心をかきたてる怪談の語り手。京都の日蓮宗寺院の住職を務める傍ら、テレビや講演会などで独自の「怪談説法」を説き続ける、怪談和尚こと三木大雲(みきだいうん)さんです。どうして怪談を始めたのか、怪談は聞く人にとってどういう意味を持つのか、怪談にまつわるさまざまなお話をうかがいました。
怪談和尚・三木大雲住職を訪ねて光照山蓮久寺へ
夜の公園から始まった怪談説法
ーー今回初めてこちらへ伺いましたが、赤い門のあるお寺って珍しいですね。
三木住職(以下同):近くにある旧花街の島原で名妓と謳われた二代目吉野太夫より寄進された門なんですよ。あらゆる芸事に秀でた太夫ゆかりの寺として、古くから諸芸能にご利益があるといわれています。
ーー誰でも自由にお参りできるんですか?
あいにく当寺は通常非公開となっております。赤門は通りに面しているので、どなたでもご自由にお参りいただけますよ。
ーーお寺のお坊さんが怪談をお話になるのも、赤門と同じくらい珍しいですよね。何かきっかけがあったんですか?
実家のお寺は兄が継ぐことになっていて、次男の私は跡を継ぐ人のないお寺を自力で探さなければなりませんでした。お寺探しと修行を兼ねて方々のお寺へ伺うと、みなさん口々におっしゃるんです。「誰もお寺に来てくれない。来てくれてもお年寄りばかりで若い人は寄り付きもしない」と。
そんなある時、深夜の公園で若者たちの姿を見かけました。着ている服には「天上天下唯我独尊」と、お釈迦様がお生まれになった時に発したとされる言葉が刺繍されていたので、あっ仏教徒だ!と思って話しかけてみたんですよ。
ーーあの、おそらくその方々は仏教徒ではなく……(苦笑)。
そう、いわゆる非行少年ですね。ちょっと話しかけたら「うるせー、来るな!」と追い返されました(笑)。それでも彼らと話がしたくて最初にしたのが怪談話です。幽霊に遭遇した私自身の体験を話しました。
ーー反応はどうでしたか?
最後まで真剣に聞いてくれて、一人の少年にこう言われたんです。「自分たちも幽霊みたいなものだ。親にも相手にされず、見えていない者のように扱われる。だから存在を認められた上に、手まで合わせてもらえて、その幽霊はすごく喜んでいると思うよ」って。
私の怪談からお説法を読み取ってくれたことに感動しましたね。同時に自分から外に出ていけば、若い人にも仏教の世界に触れてもらえるのだと気付かされました。そうして若者が集う夜の公園へ出向き、怪談を語り聞かせるようになったのが、今の活動の原点です。2005年に蓮久寺の住職となるまで、10年近く続けました。
ーー布教活動の一環として怪談を始められたと。一般的な怪談とどこか違ったりするのでしょうか?
怪談そのものは、自分が体験したり、伝え聞いたものをありのままにお話します。ただそのあとに必ず、お経に書かれているようなことをわかりやすくお伝えするようにしています。怪談と説法をセットにした独自のスタイルなので「怪談説法」と名付けました。
数々の怪談タイトルを獲得して……
ーーその怪談説法でさまざまな賞も獲得されていますね。「稲川淳二の怪談グランプリ」優勝、“最恐”怪談師決定戦「怪談王」優勝、OKOWAチャンピオンシップ初代チャンピオンなどなど。挑戦しようと思ったのはなぜですか?
怪談を始めて数年は、お坊さんが怪談をするという物珍しさでメディアに取り上げられた影響もあり、多くのご批判を受けました。特にお坊さんからの風当たりが強くて、「布教のため」という私の真意もなかなか伝わりませんでした。
布教というからには大勢の人を集めないと納得してもらえない。しかしほとんど無名の私が怪談説法をやりますと言ったところで人は集まりませんから、まずは自分を広く知ってもらおうと怪談の選手権に出場することを決めました。
ーー見事な成果を挙げられて、ご自身や周囲に変化はありましたか?
説法付きの怪談だとご理解いただいた上で、テレビやラジオ、講演会などに呼んでいただけるようになりました。現在、多い時は月に5〜6回、全国各地で講演会や怪談ライブを行なっています。なかには怪談より説法目当てでやって来る方もいらして、本来の目的が果たせつつあるのを感じています。
ーーそれだけご活躍されていると、怪談のネタが尽きてしまうのでは?
ありがたいことに、自然と怪談話が集まってくるんです。「実はこんなことがありまして……」と、不思議な体験談を話しに来てくださる方が結構いらして、そのなかからご本人の了解を得られたものを怪談話としてご紹介させていただいています。
テレビなどでお話するほかに本にもまとめておりまして、つい先ごろ、怪談本としては2冊目となる『続・怪談和尚の京都怪奇譚』が発売されました。気軽にお読みいただけたら嬉しいです。
ーー怪談話にもいろいろあって、それぞれに教訓があるとは思いますが、怪談説法を通じて、今一番伝えたいことは何ですか?
最近よく取り上げるのは呪いに関する怪談です。呪いの藁人形にまつわるお話などを入り口にして、呪いの根源は誰の心にも生じ得る「怒り」であること、そして怒りの感情はやがて恨みに変わり、人を傷つけたり、自分を不幸にしたりすることを知っていただきます。
もし嫌なことがあって怒りが湧いてきたら、どうするべきかというと、「人を許すこと」。それが唯一の方法だとお経にも書かれています。悪口を言ったり、人のせいにするよりずっと難しいことですが、一人ひとりが心がけることでこの世の中はもっと平和になるはずです。身近な人を許すことから始めてみましょうと、みなさんにお伝えしています。
特別に怪談説法をお話いただきました!
ーーよろしければ最後に、怪談説法を一話お聞かせ願えませんか?
はい、喜んで。それでは、私が大学生最後の年に念願の一人暮らしを始めた時の出来事をお話しましょう。
学生寮を出て、とあるアパートへ引っ越した当日の夜でした。電気を消してベッドで横になっていると、突然金縛りにかかりましてね。金縛りは何度も経験しているので「またか」という感じでじっとしていたら、いきなり右手首を掴まれてギューッと右のほうへ引っ張られるんです。腕が完全に伸びきった状態になっていたのですが、手首より先は動かせるとわかって、動かしているとちょうどペットボトルくらいの太さのものに触れて、とっさにギュッと握りしめたんですね。そうしたらふっと金縛りが解けて、ひと安心しました。
ですが、よくよく考えると、ベッドの右側はすぐ壁になっていて、寝ている私の右腕が伸びるはずがないんですよ。伸びたような感覚があっただけかなぁと自分を納得させつつ、ここはいわく付きの部屋に違いないと思って、次の日に大家さんのところへ聞きに行ったのですが、築年数も浅いし事故物件なんかじゃないよと言われて……。
するとその夜、また金縛りに遭いました。しかも今度は両耳を塞がれて、頭を左側へ向かせようとするんです。力負けをして左を向いた時でした。見知らぬおじいさんが立ったまま宙に浮いているんですよ。怖い!と思った瞬間、おじいさんと目が合って金縛りが解けました。
再び大家さんのところへ行ってその一件を話し、おじいさんに心あたりはないかと聞いたら、「あっ、そういえば最近、三木君の隣の部屋の人を見ていない」と言うので、大家さんと一緒にお隣のインターホンを鳴らしてみたのですが、まったく反応がありませんでした。アルバイトがあったので私は一旦その場を離れましたが、夜帰って来てみるとアパートの周りに何台もパトカーがとまっていました。隣の部屋に住んでいたおじいさんが首を吊って亡くなっていたらしいのです。
大家さんの話によると、遺書が残されているし、密室の状況から見ても自殺で間違いないだろうと。ただ一つ不審な点があって、おじいさんの右足首に誰かが強く握った痕が残っているというんです。部屋のどこで首を吊っていたんですかとたずねたら、ちょうど私がベッドを寄せていた壁のあたりだと……。そう、1日目の夜に私が掴んだものは、おじいさんの足首だったのです。
おじいさんが残した遺書には、一人は寂しいといった言葉がたくさん書かれていたそうです。人間関係が希薄になった今日、おじいさんのように孤独を抱えながら生きている人は少なくないのではないでしょうか。表面上は明るくふるまっていても、寂しい思いをしている人だっているはずです。せめてお隣同士で声を掛け合うくらいはしていきたいですね、というお話でした。
ーー亡くなったおじいさん、三木住職に見つけてほしかったんでしょうね……。切ないお話ですが、やっぱり怖い! そういう時の対処法があれば教えてください。
一番手っ取り早いのは、手を叩くことです。拍手にはその場を清めたり、人の心を鎮める効果があるといわれているので、怖い話を聞いたり、怖い体験をしたあとにおすすめです。お清めの塩を首筋にふりかけたり、お風呂に入れたりするのもよいでしょう。
ーー怪談には恐怖だけでなく、生きるヒントも隠されているんですね。説法というと堅苦しいイメージがありますが、怪談説法なら気軽に入っていけて、仏教を身近に感じることができそうです。貴重なお話をどうもありがとうございました!
怪談説法を生で聞いてみたいという方は、三木住職のフェイスブックで最新情報をチェックしてみてくださいね。お近くで開かれる講演会や怪談ライブがあれば、ぜひ足を運んでみましょう!
三木大雲住職facebook
https://www.facebook.com/mikidaiunn
■■information■■
光照山 蓮久寺
所在地:京都市下京区藪ノ内町607
電話:078-381-6628(蓮久寺別院)
https://renkyu-ji.com