今年も「ジビエ」のシーズンがやってきました。京都府のほぼ中央、かやぶきの里で知られる南丹市美山町に、この地で育った幼馴染の青年たちが手掛けるシカやイノシシなどジビエを提供する会社(組合)があります。その名も「有限責任事業組合 一網打尽」。メンバーの本業も猟師、料理人、大工、林業とさまざま。そんな彼らがなぜ、一緒にジビエを提供する会社(組合)を始めたのか、お話を伺いました。
増えすぎたシカやイノシシを美味しく食べる
京都市内から車で約1時間。京都府のほぼ中央に位置する美山町は、かやぶきの里で知られ、日本の農山村の原風景が息づく町。面積の約96%が森林に覆われ、京都大学芦生研究林があるなど自然豊かな地としても有名です。
そんな美山町で、小学校の時から仲の良かった幼馴染7人が集まり、ジビエを提供する「有限責任事業組合 一網打尽」を作ったのは今から約4年前。なぜ、このような会社(組合)を作ったのか……メンバーの一人で、美山町でかやぶきの古民家レストラン・厨房「ゆるり」を営む梅棹レオさんにお話を伺うと、学年は違うけれど仲の良かった7人は学校を卒業後、美山に残ったり、京都市内で働いたり、外に出たけれど戻ってきたりと皆バラバラの人生を歩んでいましたが、ことあるごとにこのメンバーで飲み会をしていたのだとか。
「元々は、その席で漠然と、ジビエを売れないかという話をしていたんです」。
というのも今、日本中の山里で獣害が発生していますが、美山町もその例に漏れず、シカやイノシシによる農作物への被害が深刻でした。
「一晩で畑の作物が全てなくなることもあるんです。金額にすると恐ろしい被害額ですし、防御用の電気柵や金網フェンスを取り付けるとなると、これもかなり高額になります。加えて、自動車と衝突して車を破壊されたり……とにかくみんな獣害には困っていました」。
そんなある日、梅棹さんは仲間の一人、4代目猟師で後に一網打尽の代表になる藤田敏雄さんにジビエの解体について教えてもらうことに。
「その肉を東京でレストランを営む友人に送ったんです。そうしたらすぐに連絡があって、『とても美味しい!こんなジビエ、東京では確実に手に入らないよ』と言われたんです」。
それまで地元の猟師さんは害獣駆除としてシカやイノシシを撃っても、自分たちで食べるには量が多すぎて消費しきれず、土に埋めたりしていたのだとか。ですが、そんなに美味しいと喜んでもらえるのなら「これを商売にしてはどうだろう。害獣が駆除でき、肉を有効活用できる。しかもここに産業を生むことができるのでは!?」と考えたのが会社(組合)設立のきっかけとなりました。
一網打尽のジビエが美味しい理由
捕獲から解体、精肉、販売までを一貫して行う、一網打尽。最初は藤田さんをはじめ地元・鶴ケ岡地区の猟師さんから肉を仕入れていましたが、あまりの美味しさに評判となり、今では鶴ケ岡地区だけではまかなえきれず、信頼のおける他の地域の猟師さんにも声をかけて肉を仕入れているのだそうです。
そんな一網打尽が提供する肉の美味しさの秘密はどこにあるのでしょうか。よく“ジビエとは野趣を味わうものだ”という人もいれば、“クセがあって嫌い”という人もいますが、「一網打尽の肉はクセが無さすぎると言われるんですよ」と梅棹さん。
というのも、一番大事にしていることは「鮮度」なのだそうです。肉は温かいと劣化してしまうことから、一網打尽では、猟師さんからシカやイノシシが届くとすぐに血抜きして内蔵を取り、半日ほど水につけて完全に冷やしてから解体します。そして、すぐに業務用の機械で真空パックにし、業務用冷凍庫で急速冷凍されるのです。それゆえクセがほとんどでない肉になるのだとか。これならジビエ初体験の方も安心していただけそうです。
また、ジビエと一口にいっても動物の生活環境や自然条件で肉質や味が変わるのだそうです。
面白いことに味だけでなく肉の色も全く違うそうで、特に美山町はまちの96%が森林に覆われ、山の勾配が険しいことから筋肉質で肉が赤いのが特徴。
「シカを扱うには好条件な土地なのかなと思います」。
ところでジビエは狩猟時期が決まっており、京都府では11月15日から2月15日まで(ただしシカ、イノシシは3月15日まで)。しかし、美山町では害獣として一年中猟ができるので、一網打尽では一年中、肉を提供できるのも強みです。
梅棹さんによると「ジビエは冬のイメージがありますが、実はシカに限っては夏も美味しいのです。特に春から山菜や新芽をお腹いっぱい食べたシカは、夏~初秋にかけて脂がのるんですよ」とのこと。一方、冬のシカ肉は高たんぱく・低脂肪で、鉄分やビタミンB2を豊富に含み、脂が少なくてヘルシー。アスリートやダイエット中の方、貧血、冷え症の方にもオススメなんですって。
一網打尽のジビエを買うには
そうと聞いたら早速、食べてみたくなるのですが、現在、人気が高じて在庫が足りず、一網打尽のネットショップからは購入ができない状況でした。(2021年12月7日現在)
このような時は、電話で直接問い合わせ(記事下に連絡先を記載しています)をするか、南丹市日吉町の道の駅「スプリングひよし」や南丹市美山町の道の駅「ふらっと美山」、南丹市園部町の「道の駅京都新光悦村」で購入することも可能です。ちなみにスプリングひよしのレストランで出されている「日吉ダムカレー」には、一網打尽から届けられる、シカ肉が入っているそうで、これは訪れた時にいただかなくては!!
もちろん梅棹さんが営む民家レストラン・厨房「ゆるり」でもジビエ料理をいただくことができますよ。ランチコース3300円~、ディナー5400円~。どの料理も美しい!! こちらでは、宿泊もできるので、梅棹さんが作る美味しい料理とお酒を堪能し、かやぶきの古民家に泊まるのも大人ならではの過ごし方ですね(1泊2食付き1人2万2000円)。
また、道の駅などでは、愛犬用にシカのドックジャーキーやおもちゃ用のツノも販売しています。大事な愛犬には美味しくて安全なものを食べてほしいですものね。それに骨は噛んだりして遊んでいるうちに割れてしまいがちですが、ツノなら割れる心配がないため、安心です。一網打尽では、こうやって自然の恵みを余すところなくいただき、活用しているのです。
クリスマスやお正月にもオススメ〜お家でジビエを〜
さて、お肉を買ってきたはいいけれど、どうやって料理したらいいの? という方へ。
ジビエは牛や豚と同じように調理したらOKで、例えばミンチはハンバーグやパスタソースにするのも良いですし、梅棹さんに伺うと「シカ肉は低温調理がおすすめです。家庭では炊飯器などを使って低温調理する方もいらっしゃいますよね。外モモ肉を使うとローストビーフのような食感になりますよ」とのこと。
早速、インターネットで調べてみると炊飯器を使った低温調理法でローストビーフを作るレシピがたくさん出てきました。ぜひ、チェックしてクリスマスやお正月に挑戦してみてはいかがでしょう。その他、ステーキにすると肉の食感と味わいがダイレクトに楽しめますし、スライス肉は焼肉や鍋にすると、あっさり&ヘルシーな美味しいお肉を味わえますよ。
人は里山に、獣は奥山に―
「増えすぎた野生鳥獣と里山に暮らす人々とが適正なバランスで暮らせるよう、美味しく楽しく里山を守ることが私たちの使命」という一網打尽。
「獣害を無くすのが本来の目的なので、より多くの猟師さんから多くの頭数を仕入れ、たくさんのジビエを世に送り出していきたいと思っています」と梅棹さん。美味しいジビエを食べ、動物と適切なバランスで暮らせる美しい里山の風景をとりもどすその日まで、戦いは続きます。
■■INFORMATON■■
一網打尽
京都府南丹市美山町盛郷佐野前15
090-3713-8213(梅棹)
受付時間 9:00~18:00
古民家レストラン・厨房「ゆるり」
京都府南丹市美山町盛郷佐野前15
TEL:0771-76-0741
営業時間:12:00~14:00 18:00〜(一組限定)
定休日:なし(電話にて要予約)