“海の京都”と呼ばれる京都府北部の丹後エリア。京丹後市、宮津市、伊根町、与謝野町、舞鶴市からなるこの地域は、海に面していることもあり、魚介類が豊富に獲れることでも知られています。京都に海がある……というと驚かれることがありますが、実は丹後の海は美しい絶景の地であり、さまざまな生き物の宝庫なんです!
今回は「京都府農林水産技術センター海洋センター(以下、海洋センター)」の研究部・岩尾敦志さんに、丹後の海の魅力とそこに住まう生き物たちについてお話を伺いました。
丹後の海ってどんなところ?
海の京都を調査・保護する海洋センター
宮津市にある「海洋センター」は、海水の塩分、水温、流れなどの海洋観測や、海洋資源の把握、海の生き物たちが病気になっていないかなど、海に関するさまざまなものの調査・研究を行う研究所です。
私たちに身近なもので言うと、アカモク(食用海藻)やトリガイの養殖・生産支援、ズワイガニ、アカガレイなどを増やすための資源管理の研究もしているんですよ。
丹後の海で見られる生き物ってどれくらいいるの?
そして、京都北部の丹後の海では、実に多くの生き物が生息しています。魚だけでも約500種、エビやカニで約130種、海藻(海草)類で約200種、貝類に至ってはさらに多くの種類がいるのだそう! 想像の何倍も多くて驚くばかりです。
ブリやカニ、カキetc……豊富でおいしい海産物の秘密
丹後地域は良質かつ豊富な海産物が有名ですが、その理由の一つとして、海流が関係しています。
丹後の海では、海面の上層部に対馬(つしま)暖流という暖かい海水が流れていて、ここではブリやマグロ、サワラなどが獲れます。また、日本海固有水という冷たい海水が存在する下層部ではズワイガニやハタハタなどの魚介類が獲れます。
2種類の海水が入り混じっているからこそ、たくさんの生き物たちが丹後の海に住んでいるんです。
また、丹後半島に見られるリアス式海岸(※)や宮津湾のような独特の美しい地形も丹後の魅力の一つ。入り組んだ内湾では海水の出入りが少なく、山里から流れてくる栄養豊富な水により、プランクトンが多く発生します。これによって魚たちは良質な餌をたくさん食べることができ、質の高い個体へと成長するのです。丹後地域の特産品として挙げられるマイワシやカキ、トリガイなどはその代表的存在ですよね。
※リアス式海岸……狭い湾や入り江が複雑に入り組んだ海岸のこと
丹後で出合えるかも?ちょっと変わった生き物図鑑
そんな丹後の海で暮らしている生き物たちをご紹介。見つけられたらラッキーかも?な、レア度高めのちょっと変わったマイナーさんたちが勢ぞろいしていますよ~。
ゆるキャラのような見た目と名前の「アバチャン」
とぼけたような顔に半透明の体、神秘的なようでいて、どこかかわいらしさもあるこのアバチャンは水深数百mの海底に生息する深海魚です。それゆえに半透明&寒天質の体をしています。名前がとっても気になりますが、顔の見た目が“おばあちゃん”に似ていることから、アバチャンと呼ばれるようになったという説があるのだとか。
また、お腹には吸盤があり、岩や水槽のガラスに張り付くことができるのだそう。波に揺られながら張り付いているのを見ていたら癒される……かも?
大人の姿からは想像できない!「キアンコウ」の稚魚
アンコウはみなさんご存じ、鍋で食べるとおいしい魚ですよね。成魚はぼってりした体にちょっと怖い顔立ちですが……。なんとアンコウの仲間のキアンコウの稚魚はこんなにもかわいらしい姿なんです。体は半透明、ヒレは大きくまるでフリルのよう。海でなければ金魚と見間違えてしまいそうです。とはいえやはりアンコウ。よく見るとアンコウならではの大きな口と鋭い眼光の面影が見られます(笑)
大人のアンコウは海底にどっしりと構えていますが、稚魚の時はフワフワと海中を漂い行動範囲を広めているのだそう。成魚になるまでは数年かかりますが、ある程度成長するとかわいらしい姿ではなくなってしまいます。アンコウ以外にも稚魚と成魚の違いを比べて見るのも面白いかもしれませんね。
「キュウリエソ」は魚なのにきゅうりの匂い!?
こちらは体長5~6㎝ほどの小さな魚「キュウリエソ」。なんとこの魚、生きている時の匂いが野菜のキュウリにそっくりなのだとか!魚特有の生臭さとキュウリの青臭さは似て非なるもの……。魚からキュウリの匂いがしたら混乱してしまうかも。ちなみに、夏の風物詩である川魚のアユもキュウリやスイカのような匂いがするそうですよ。
さらに、「ツムブリ」(※)という魚がいるのですが、かつて丹後地域ではなぜか“きゅうり”と呼ばれていたのだそう……。岩尾さんによると、丹後ではきゅうりの他に「なみくぐり(海面の表層を泳ぐから)」や「しおきり(同前)」「きつね(顔が細いから)」と言った呼び名もあるようですが、“きゅうり”だけは由来が想像できないとのこと。魚の呼び方ひとつとっても不思議でいっぱいです!
※ブリ、とついていますがアジ科です。謎ですね……。
「コンペイトウ」はあのお菓子が由来
このコロンと丸い魚の名前は、「コンペイトウ」。名前の由来はまさしくお菓子の金平糖に似ていることからきています。
金平糖らしさを引き立たせる体のつぶつぶは骨質のコブで、さらにお腹には吸盤がついています。アバチャン同様、この吸盤で岩場にくっつくことができますよ。また、メスは吸盤を使って巻貝にくっついて、貝の中に卵を産み付けます。産み付けられた卵は、孵化して稚魚が出てくるまでオスのコンペイトウが守っているのだそう。魚界のイクメンですね♪
深海のホラー担当?な「シャチブリ」
少し不気味な模様に、深海魚ならではのぬめり感、大きく見開いたような目……。目の前に現れたら思わずのけ反ってしまいそうな見た目のシャチブリは、地域によっては“幽霊”と呼ばれることもあるのだそう。
体長は1m前後で体のほとんどは半透明です。食事の際は魚に食らいつくようにして食べるのかな、と思いきや、餌は海底にいるエビなどに口を近づけて吸い込むのだそう。意外と控えめなんですね~。
見た目に反して美味!?海の珍味「カメノテ」
こちらは一見すると生き物なのか食べ物なのかも分からないですが、「カメノテ」という生き物です。名前の通り亀の手に似ていることから名づけられていて、エビなどと同じ節足動物(※)です。手のように見える部分は固く、腕のような部分はザラザラ・ぶよぶよ。まさに“亀の手”。
普段は岩の割れ目に一塊になって張り付いています。移動することはなく、潮が満ちてくると“手”の部分から蔓脚(まんきゃく)と呼ばれる脚を伸ばしてプランクトンなどを食べています。岩尾さん曰く「蔓脚はミジンコの手(触角)の束を想像すると分かりやすいかも」とのこと。
ちなみにカメノテは食べられるんですよ。塩水でボイルしてから皮をむくと、小さな身があり、珍味としても人気。また、お味噌汁などに入れてもいいお出汁が出ます。
※節足動物……体にたくさんの節がある生き物。昆虫やクモなども含まれます。
貝の中に住むタコ「アオイガイ」
白い殻の中に住むのは……なんとタコ!なんですが、今回は中身が入った画像を用意できませんでした……。残念。アオイガイは殻が巻貝に似ていることからカイダコとも呼ばれ、オウムガイやアンモナイトに近い生き物です。
また、体の部分は30㎝前後と、タコにしてはやや小さめです。丹後の海では死んでしまって殻だけになったものが浜に打ち上げられていることがあるそう。きれいなものは置物としても人気なので、探してみてください。
有名昔ばなしから名づけられた「ブンブクチャガマ」
日本の昔話「分福茶釜」は、たぬきが茶釜に化けて芸をするお話です。この昔話から名づけられた「ブンブクチャガマ」は、ウニの仲間で体中にトゲがあります(写真左)。
また、ヒトデやナマコと同じ棘皮動物(きょくひ)に分類され、体の中心から5方向に放射状にのびているのが特徴。ヒトデは分かりやすい例ですが、ブンブクチャガマも死後、殻になるとその様子がよく分かります(写真右)。
ブンブクチャガマの殻も浜辺で見つけることはできますが、3~5㎝と小さいので見逃してしまわないようご注意を。
海の中で花を咲かせる海草「アマモ」
緑色で細長い葉の「アマモ」は、ワカメや昆布などの“海藻”とは違い、“海草(うみくさ、とも呼ばれます)”に分類されます。アマモは水中で花を咲かせる種子植物で、陸の植物と同様に葉・茎・根があります。アマモの進化の過程も興味深く、海から一度陸に上がった植物が再び海に帰ってきたのだとか! 陸と海を移動して進化するのは動物だけではないんですね。
また、アマモの群生地にはプランクトンなどの小さな生き物が豊富に生息しており、さらに隠れ家としても機能しているのでさまざまな種の稚魚や幼生が集まります。それゆえに「海のゆりかご」とも呼ばれているんですよ。
アマモ場を見つけたら、どんな生き物が暮らしているのかも観察してみてください。
丹後の海へ出かけよう!
海で注意してほしいこと
今回ピックアップした生き物のほかにも、面白フェイスの「ウマヅラハギ」や、一筋縄ではいかなそうな「ガンコ」、ヒラヒラとしたフォルムが神秘的な「サケガシラ」「リュウグウノツカイ」など、丹後の海にはさまざまな生き物たちが生息しています。
そんな生き物たちを観察したい!獲ってみたい!となったら、まずは確認を。海では採取が禁止されているエリア・種類があるので、近くの漁業協同組合にお問い合わせくださいね。
おすすめの丹後の海観察スポット
海の生き物たちを観察するなら、一般に開放されている海水浴場がおすすめ。京丹後市なら八丁浜海水浴場、琴引浜など。宮津市なら天橋立や丹後由良海水浴場(写真)などがありますよ。足場の悪い岩場などは慣れていないと危険なので、無理のない範囲で海の生き物観察を楽しんでくださいね。
■■取材協力■■
京都府農林水産技術センター海洋センター
宮津市字小田宿野1029-3
0772-25-0129
https://www.pref.kyoto.jp/kaiyo/index.html
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